ツーラ造兵廠

プロルス ロシアにおける軍需生産が国営兵器廠と民営会社の組み合わせでなされ、双方とも陸軍省の官僚の指令に悩まされたことはわかります。それでも軍人が不発弾を嫌がるのはわかりますし、陸軍省が一定の予算の中で多量の調達をなしたいというのも当然でしょう。

他国ではそれでも効率的な運営が可能であったので、ロシアには何か欠陥があったんでしょうね。

別宮 以前3GTのところで、ロシアの砲弾信管はオーバースペックであったと説明しました。兵器生産は民生品生産とはかなり違います。最終消費者が役人であるか民間人であるかの違いがあります。

ロシアの軍人=役人は民間人であるかのような行動をとったんですね。普通の国であれば、3GTがオーバースペックであると判断したら陸軍省の調達担当はすぐさまスペックを落とします。この場合、現場の意見を聞かずに決定を下すでしょう。

というのは、現場責任者たる野戦軍司令官は与えられた武器で戦うもので、敵より劣った武器を与えられても、それを計算したうえで作戦を考えねばなりません。砲弾が少ないので、兵站本部に増やせということはいえても、砲弾の性能が悪いから良くすべきというのは、意見・助言以上、いうことができないのです。

これは武器調達の重要なルールです。悪例は太平洋戦争中の日本海軍で、造兵家は常に用兵家の下に置かれていました。この結果、多品種少量生産に陥ってしまったのでです。明治時代、戦艦は輸入していましたが、昭和になると国産になり、この弊害が生じました。

昭和の海軍大臣には山本権兵衛の力はなく、大臣現役武官制により用兵家上がりが省の重要ポストにつきました。

プロルス ということは官僚の間のルールのようなものが固まっていなかった?

別宮 まったく、その通りです。ロシアはまだ若い国だったんですね。農奴制が廃止されて間もなく、自作農が大半を占める国でした。大土地所有制であれば、農民は作況によって生活があまり左右されませんが、自作農中心になると農民は農業経営者になります。

ロシア最大のツーラ造兵廠でも戦争が勃発すると大量の臨時工を農民から雇いました。ところが大半は字も読めないんですね。その結果、3GT生産部門は、1914年だけで90万個の不良信管を製造してしまいました。全体の6割に達する量です。

普通であればここで量産に適したスペックに改めるところですが、それができませんでした。はっきりしている原因を正すため、臨時工の職業訓練を実施しましたが、急に成果が上がるものではありませんでした。

そのうえ自作農が多いですから、秋の農繁期には収穫のため、実家に帰ってしまうんですね。ツーラ造兵廠もボーナスを与えて引き止めたのですが、無駄でした。大土地経営であれば他所から人を雇いますが、自作農はそれができません。

プロルス 常雇いできる若者は徴兵にかかりますから、農民を臨時工とする以外手段がなかったんですね。

別宮 日常の労働条件は厳しかったようで、1日10時間労働は普通でした。ところが、復活祭のある5月には15日以上の宗教上の休日がありました。

こういった不規則な労働が不良品を増加させることもまた自然でしょう。