3GT

プロルス でも、ロシア国産兵器が多少コスト高であったり、生産規模が小さかったりしても、1915年におけるあれほどの砲弾不足はちょっと考えられません。第1に砲弾は石炭と鉄鉱石からつくれるものであって、ロシアには十分資源があります。第二次大戦では遺憾なく能力を発揮しています。

別宮 砲弾不足はロシアに限らず、どの国にも起きました。ただ、ロシアは平時における月産45万発の生産能力が、100万発までしか伸びず、英仏伊独墺よりも圧倒的に低いのです。そして戦場の必要を五分の一しか満たしませんでした。まず、第1の原因ですが、信管の製造が伸びなかったことです。ロシアの信管は3GTと呼ばれるものでした。

3GTの特徴は腔発(弾丸が砲身内で暴発すること)防止装置にありました。日露戦争で腔発が続発し、また野砲の速射性が増したことにより、各国ともそれの防止研究に全力をあげました。要領は、赤熱した砲身を通過しても信管が作動しなければいいのです。

プロルス あまりロシア人が得意そうでない分野ですね。

別宮 でもそうでもなく、第一次大戦におけるロシアの信管は世界最高水準でした。なんと、弾丸が落下軌道に入っても暴発することはありませんでした。

プロルス 日本陸軍はどうだったのですか?

別宮 当然日本でも研究され、艦砲や重砲ではほとんど克服されたのですが、野砲弾となると品質バラツキが防げず、第二次大戦でも腔発事故は発生しています。ただ難しいのは実弾演習などは平時などはあまり行なわれません。ロシアなどは予算節減から野砲については年間40発に制限されていました。ですから、実戦が開始されてからこの問題は表面化しました。

プロルス では、帝政ロシアは兵員の人命尊重に意を注いでいたということ?

別宮 軌道で砲弾が暴発しては砲兵将校は面白くないですよね。ですから人命尊重というより、そういった安全基準がロシアにあったということでしょう。

プロルス でも、それが理由で信管製造に困難をきたしたのですか?

別宮 じつは、こういった高性能の信管を製造するには、着火時間を一定とさせるため、限りなく純度の高いピクリン酸(トリニトロトルエン)を製造し、金属カプセルの内部容量を一定にせねばなりません。金属についていえば1インチ当たり千分の3以下の精度が要求されます。ところが、それに必要な工作機械がロシアになかったんですね。熟練工が磨いたものを、一々検品するという工程を経ていたのですが、これでは量産不可能です。

それと、果たして落下軌道に入ってからの暴発することを防ぐ意味があったかということです。すなわち、それでは目標に命中しませんが、それと砲弾不足とどちらがいいのか?という点です。

プロレス つまり、オーバー・スペック?

別宮 そうですね。フランス人造兵将校が、カプセルの製造について一品生産でなく、水圧式プレス機械を導入したらどうかと提案したのですが、ロシア人は、それでは精度が維持できないとして、拒否しました。

プロレス それはまた頑固な!

別宮 結局、ロシア人は合議制で仕事をやっていたんですね。すなわちロシア造兵当局は参謀本部砲兵部に信管安全基準の変更を求めます。すると砲術将校が集まって可否を検討します。でも、砲術将校が今より性能の悪い基準を許可するでしょうか?権限で働いている役人は自分の利害以外は考慮しないんですね。それと輸入砲弾という選択肢があります。

多くの砲術将校は、安全基準に達していなくとも外国製品であれば自国製よりよいという舶来品信仰のようなものがあったんでしょうね。つまり、独裁者がいて「ツベコベいうな」といえば終わるんですが合議になるとうまくいきません。